「こどもみらい住宅支援事業」など、住宅に関する補助金の対象となる「認定低炭素住宅」。2022年10月より認定基準が見直しとなり改定されました。UA値基準の変更、太陽光発電の必要性など、認定を取るための改定後の基準と、その手続き方法について解説します。
■ 難しい内容はちょっと…という方は各項目の「POINT」のみ抑えておけばOK!
■ こちらでは新築戸建住宅を対象とした内容を記載しています。
低炭素住宅とは?
低炭素住宅とは、二酸化炭素(CO2)の排出を抑えるための対策として制定された「エコまち法」に基づいて、「低炭素建築物新築等計画の認定制度」で規定された住宅で、市街化区域等内に建築される断熱性能や省エネ効果など低炭素化を行った住宅を指します。
認定を受けた新築住宅については、 住宅ローン減税やローン金利など、税制・融資の面で優遇される対象となります。
日本は2030年度までに温室効果ガスを46%削減することを目指すこと(2013年度比)、さらに50%の高みに向け挑戦を続けることを表明しています。
CO2排出量の削減において欠かせないのが「住宅の低炭素化」であり、目標の実現に向けて「一定の基準をクリアした省エネ住宅の新築」と、「一定の要件を満たすリフォーム」を対象として補助金の交付を行っています。
2022年10月より、低炭素住宅の認定基準の改正が行われました。外皮性能(UA値)等は「ZEH水準に相当する基準」となり、再生可能エネルギー源を利用するための設備(太陽光パネルなど)の導入が必要となるなど、より高い省エネ効果を求められる認定基準となりました。
POINT – 低炭素住宅とは?
- 低炭素住宅とは、CO2の排出を抑えた住宅
- 住宅ローン控除やローン金利など金銭面での優遇がある
- 国のCO2排出量の削減に向けて、補助金の給付対象となる場合がある
- 2022年10月より認定基準のハードルがアップ
- 建築地の地域が原則、「市街化区域」内にあること
低炭素住宅の認定
低炭素住宅の認定を受けるためには、住宅の新築等計画を作成し、所管行政庁へ認定申請することとなります。提出された計画が次の基準に適合する場合に認定されます。
- 建築物のエネルギーの使用の効率性その他の性能が、省エネ法の判断基準を超え、誘導基準(経済産業大臣、国土交通 大臣及び環境大臣が定めるもの)に適合するものであること。
- 都市の低炭素化の促進に関する基本方針に照らして適切なものであること
- 資金計画が低炭素化のための建築物の新築等を確実に遂行するため適切なものであること。
1については、2022年10月より基準が改定され、ZEHと同等の性能が必要となりました。平成28年(2016年)に制定された「建築物省エネ法」の基準に対して、一次エネルギー消費量をさらに20%以上削減する必要があります。(2022年9月までは10%以上)加えてZEHと同等以上の断熱性能の確保が要件となります。
認定基準① 外皮性能
低炭素住宅の認定には外皮性能(UA 及びηAC)を基準に適合させる必要があります。暖房や冷房によるエネルギー消費量を抑えるため、建物自体の断熱性能等を高める必要があります。
1~2 地域 | 3 地域 | 4~7地域 | 8地域 |
---|---|---|---|
0.4 以下 | 0.5 以下 | 0.6 以下 | ー |
※外皮平均熱貫流率(UA値)は、住宅の内部から床、外壁、屋根(天井)や開口部などを通過して外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値です。つまり、熱損失の合計を外皮面積で除した値で、値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示します。
※寒い地域は暖房によるエネルギー消費を抑えるために、より高い断熱性能が求められます。
1~4 地域 | 5 地域 | 6 地域 | 7 地域 | 8 地域 |
---|---|---|---|---|
ー | 3.0以下 | 2.8以下 | 2.7以下 | 6.7以下 |
※ηAC値は、窓から直接侵入する日射による熱と、窓以外から日射の影響で熱伝導により侵入する熱を評価した、冷房期の指標です。
単位日射強度当たりの日射により建物内部で取得する熱量を冷房期間で平均し、外皮面積の合計で除した値です。
値が小さいほど住宅内に入る日射による熱量が少なく、冷房効果が高くなります。
※暖かい地域は冷房によるエネルギー消費を抑えるために、より低い日射取得率が求められます。(8地域を除く)
断熱材や複層ガラスを使用して断熱性能を高めるほか、凹凸の少ない形状の家にすることで外皮面積を減らすことが有効です。ηAC値は断熱性能を高めること、窓からの日射熱の侵入を防ぐためLow-E複層ガラスや樹脂サッシの使用、庇(ひさし)をつけることなどが有効です。
POINT – 認定基準① 外皮性能
- 低炭素住宅の外皮性能はUA値、ηAC値の基準値をクリアする必要がある
- UA値…値が小さいほど暖かさが逃げにくく、暖房期の省エネになる
- ηAC値…値が小さいほど日射の熱が入りにくく、冷房期の省エネになる
- UA値、ηAC値の基準値は地域によって異なる
認定基準② 一次エネルギー消費性能
低炭素住宅の認定には、平成28年に定められた省エネ基準よりも「一次エネルギー消費量を20%以上削減していること」が必要となります。
一次エネルギー消費量とは?
化石燃料、原子力燃料、水力・太陽光など自然から得られるエネルギーを「一次エネルギー」、これらを変換・加工して得られるエネルギー(電気・灯油・都市ガス等)を「二次エネルギー」といいます。建築物では二次エネルギーが多く使用されており、それぞれ異なる計量単位(kWh、ℓ、MJ等)で使用されています。それを一次エネルギー消費量へ換算することにより、建築物の総エネルギー消費量を同じ単位(MJ、GJ)で求めることができるようになります。
省エネ基準とは?
外皮の断熱性能のみでなく、住宅全体の省エネ性能を評価するため、一次エネルギー消費量や太陽光発電等によるエネルギーの創出量の評価が必要となります。一次エネルギー消費量の基準は下記の項目ごとに定められています。
一次エネルギー消費量については、専用のWebプログラムで計算することが可能ですが、一次エネルギー消費量の基準は、設計する住宅の地域区分や床面積、使用する設備機器の種類等によって基準値が変わり、使用する設備の細かな情報等も必要となります。
一次エネルギー消費量を削減するには?
一次エネルギー消費量を削減するには、省エネ設備機器を導入する必要があります。一次エネルギー消費量で多くを占めるのは「給湯設備」および「冷暖房設備」です。例として給湯器をエコキュートにすること、高効率なエアコンを使用することなどが挙げられます。また、太陽光発電設備等によるエネルギーを創出し、自家消費を行うことで一次エネルギー消費量を大幅に削減できます。
POINT – 認定基準② 一次エネルギー消費性能
- 一次エネルギー消費性能の認定基準は、省エネ基準よりも「一次エネルギー消費量を20%以上削減していること」
- 「省エネ基準」とは建物全体(暖房等の設備機器も含む)の省エネ性能を評価する基準
- 一次エネルギー消費量を削減するには、省エネ設備機器や太陽光発電を導入する
認定基準③ その他講ずべき措置
再生可能エネルギー利用設備の導入(必須項目)
2022年10月より、再生可能エネルギー利用設備(太陽光発電など)の導入が必須となりました。対象となる以下の設備のいずれかを導入し、省エネ量と再生可能エネルギー利用設備で得られる創エネ量の合計が基準一次エネルギー消費量の50%以上であることが条件となります。(戸建住宅の場合のみ)
- 太陽光発電設備
- 太陽熱・地中熱を利用する設備
- 風力・水力・バイオマス等を利用する発電設備
- 河川水熱等を利用する設備
- 薪・ペレットストーブ等の熱利用
※上記の設備の中から1つ以上導入する
省エネ量 + 創エネ量 が 基準一次エネルギー消費量の50%以上
「認定基準② 一次エネルギー消費性能」で前述した一次エネルギー消費量の削減と、太陽光発電などで創られた総エネ量を合わせ、基準一次エネルギー消費量の50%以上であることが条件となります。
低炭素化に資する措置(選択項目)
以下の住宅の低炭素化のための措置(9項目)の内、いずれか1つ以上適合している必要があります。(①、⑦、⑨が比較的取り入れやすい措置になります。)
- 節水対策
-
① 節水に役立つ機器を設置している。以下のいずれかの措置を講じていること。
・設置する便器の半数以上に節水に役立つ便器を採用している。
・設置する水栓の半数以上に節水に役立つ水栓を採用している。
・食器洗い機を設置している。
② 雨水や井戸水、または雑排水の利用のための設備を設置している。 - エネルギーマネジメント
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③ HEMS(ホームエネルギー・マネジメント・システム)、またはBEMS(ビルエネルギー・マネジメント・システム)を設置している。
④ 太陽光等の再生可能エネルギーを利用した発電設備および、それと連係した定置型の蓄電池を設置している。 - ヒートアイランド対策
-
⑤ 以下のいずれかの措置を講じていること。
・緑地、または水面の面積が敷地面積の10%以上
・日射反射率の高い舗装の面積が敷地面積の10%以上
・緑化を行う、または日射反射率等の高い屋根材を使用する面積が屋根面積の20%以上
・壁面緑化を行う面積が外壁面積の10%以上 - 躯体の低炭素化
-
⑥ 住宅の劣化の軽減を助ける措置を講じている。
⑦ 木造住宅もしくは木造建築物である。
⑧ 高炉セメントまたはフライアッシュセメントを構造耐力上主要な部分に使用している。 - V2H充放電設備の設置
-
⑨ 建築物から電気自動車等に電気を供給するための設、または電気自動車等から建築物に電気を供給するための設備を設置している。
※電気自動車等に充電のみをする設備を含む
POINT – 認定基準③ その他講ずべき措置
- 太陽光発電や薪ストーブなど再生可能エネルギー利用設備の導入が必須
- 省エネ基準に対して「認定基準②の省エネによる削減(20%以上)」+「太陽光などの総エネによる削減」の合計が50%以上になる必要がある
- 低炭素化に役立つこと(食洗器、木造住宅など)を1つ以上取り入れる
低炭素住宅の申請手続きについて
■低炭素住宅の認定の申請手続きの流れ
低炭素住宅の認定の申請手続きは以下の流れになります。
- 1. 認定申請書
-
申請者が作成し、所管行政庁の提出
- 2. 添付図書
- a. 設計内容説明書
-
認定基準適合の根拠となる設計の内容等を記載したもの。
- b. 各種図面・計算書
-
認定申請する建築物が設計内容証明書のとおりに設計されていることを確認するための書類。
(一次エネルギー消費量、UA値、ηAC値など) - c. その他必要な書類
-
審査機関の技術的審査をあらかじめ受けてきた場合における当該機関が発行する適合証など。
- d. 建築確認に関する申請図書
-
法第54条第2項により認定申請と合わせて建築確認申請を行う場合には、建築確認の申請図書を提出する。
申請手続きは個人で行うことも不可能ではありませんが、計算に基づいたあらゆる証明書等が必要となるため、ハウスメーカーや工務店に依頼するのが良いでしょう。低炭素住宅の認定を希望する場合は、あらかじめ申請業務を行うことができるか確認が必要です。
まとめ
以上が低炭素住宅についてと、その認定基準となります。低炭素住宅は、家づくり計画の際に下記の4点を取り入れることで比較的簡単に認定を取ることが可能です。
- 断熱性能を上げる
- 日射熱の侵入を防ぐ
- 省エネ設備を導入する
- 太陽光発電を設置する
こういった措置を行うことで建築時のイニシャルコストは上がりますが、家の性能が上がり省エネ設備を取り入れることで光熱費などのランニングコストを抑えることができるほか、認定を取ることで住宅に関する補助金の対象となる場合がある、住宅ローン控除やローン金利など金銭面での優遇されるなどのメリットがあります。政府が掲げるCO2削減目標達成のため、今後も省エネ住宅への優遇は継続するものと思われます。
参考文献:国土交通省 エコまち法に基づく低炭素建築物の認定制度の概要